2026年9月  長月(ながつき)

 9月21日(月曜日)は「敬老の日」です。昭和26年から9月15日を「としよりの日」と称していましたが、語感(ごかん)が悪いというので昭和39年に「老人の日」と改められました。ところが「老人」というのも語感が悪いとなり、昭和41年に「老人を敬愛し、長寿を祝う」という法定(ほうてい)趣旨(しゅし)のもと「敬老の日」に変更され国民の祝日に追加されました。2002年(平成14年)までは9月15日が「敬老の日」でしたが、ハッピーマンデー制度の実施に伴い2003年(平成15年)から9月第3月曜日に変更されました。

 日本は世界屈指の長寿国です。WHO(世界保健機関)2025年版世界平均寿命ランキングで日本は第1位(84.46歳)、2位シンガポール(83.86歳)、3位大韓民国(83.80歳)、4位スイス(83.33歳)と続きます。

 ランキング下位にはアフリカの開発途上国が目立ち、レソト、中央アフリカ共和国、ソマリアなど。平均寿命は50歳台だそうです。その理由としては貧困、飢餓、紛争、衛生面の問題などが挙げられます。

 長寿の要因は、医療技術の発達や所得水準の高さなどのほか、長い年月をかけて(つちか)ってきた「日本の食事」と「豊かな水」に起因している部分も大きいそうです。昨今、世界中から高タンパク・低カロリーの健康食として注目される日本食のルーツは、なんと縄文時代にありました。

 太古(たいこ)の日本、縄文時代の人々は私たちの想像も及ばないほど豊かな食生活をおくっていたようです。一説によれば約400種類の山菜やキノコ類、約70種類の魚や動物、約35種類の鳥、約350種類の貝、穀物として栗やトチの実、ドングリ等を摂取していました。

青森県の(さん)内丸山(ないまるやま)遺跡(いせき)は縄文時代前期から中期(約5500年前~4000年前)に約1500年以上継続して(いとな)まれた日本最大の縄文集落跡ですが、この遺跡から栗が大量に出土しDNA鑑定の結果、栽培されていたものということがわかったそうです。縄文時代は現代より気温が2~3度高かったそうですから栽培も十分可能で、主食として貯蔵もされていたようです。

日本は質の良い豊かな水に恵まれています。栗やドングリ、トチの実などは、水にさらしてアクを抜き、水で煮て柔らかくし、水を用いて食べやすいものに調理されました。現在でも魚を水洗いして生で食べる、水にさらしてアクを抜く、野菜を茹でるなど水をふんだんに使います。それゆえ日本料理の特徴は「水の料理」といえるそうです。水を活かした食材の調理方法、加工技術、ヘルシーな日本食の基礎は、こうして縄文時代に築かれたものといっていいそうです。

日本に豊かな水があるのには地形が関係しています。日本の国土は狭く、内陸から海までわりと急な斜面です。山に降った雨は地下に入ってもゆっくりと流れることなく海に出てしまいます。そのためにミネラル分を(たくわ)えることが出来ずに軟水(なんすい)となります。

対して中国、アメリカ、ヨーロッパなどの大陸では、広い土地の地下をゆっくりと流れるうちにカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分を取り込んで硬水(こうすい)となります。

軟水は食材のうまみを引き出すことができるので、昆布や鰹節から出汁(だし)がとれますが、硬水では出汁がとれません。そのかわりに肉や野菜の煮崩れを防ぎ、肉の臭みを抑えてアクをとる効果があります。フランス料理の基本となるブイヨン(肉と香味野菜からとる出汁でスープのベース)はクリアに仕上がります。

水の違いによってその土地の料理にも違いが出ます。中国では炒める、油で揚げるという調理方法。西洋料理はブイヨンを基本にデミグラスソースやベシャメルソースなどのソースを肉に添え、油脂類や香辛料を多く使います。

対して軟水の日本は水をたくさん使えるので、昆布から出汁をとったり、魚を水洗いして刺身にしたり、野菜を茹でたり、水にさらしてアクを抜いたりとヘルシーな料理を作ることができます。昆布利用の歴史は古く「万葉集」にも記録があるそうですから、日本人にとっては大変貴重な食材だったことがわかります。

余談ですが、同じ日本でも関東と関西ではいくぶん水質が違うそうです。関東は、関東ローム層を通る影響でミネラル分が多く含まれ関西の水より硬質(こうしつ)になります。関東の出汁は関西に比べると旨味がうまく引き出せない為に濃口(こいくち)醤油(しょうゆ)が生まれ、味を(おぎな)ってきました。

また、関東ではミネラル分のせいでお米が立つように炊け、粘り気が少なくて握り易く「握り寿司」が生まれ、関西はふっくらと炊き上がって粘り気があるため「押し寿司」が主流となりました。

水を活かしたヘルシーな日本食の基礎はこうして縄文時代に築かれました。中国の歴史書『()()倭人伝(わじんでん)』には三世紀頃の日本について「()(日本)の地は温暖にして、(とう)() (せい)(さい)を食う」「人々は長寿で100歳、あるいは80、90歳まで生きる」と書かれているそうです。

豊かな水に恵まれ長寿の国となった日本、先人の知恵に感謝です。